タイのモダントレード(大型スーパーやコンビニ)に商品を並べるコストは、小売価格の半分以上になることがあります。ユーロモニターのチャネル構成比は出てきても、この「棚の裏側」の話はなかなか見つかりません。
「タイに販路を広げたいが、流通コストの実態がわからない」
食品・消費財メーカーの海外事業担当者から、こうした相談を受けることがあります。
タイの流通コストはタイ語で検索しないとほとんど出てきません。タイ語の業界メディアの情報をもとに、「棚に並べるまでの本当のコスト」を書いてみます。
(※ この記事には表が含まれています。表が見づらい場合は、当社WEBサイト版でも同じ内容をお読みいただけます)
タイの食品小売は3つの財閥が握っている
タイの食品小売はモダントレード(MT)が61%を占め、CPグループ、TCCグループ、セントラルグループの3財閥が支配しています。
| チャネル | 構成比 |
|---|---|
| モダントレード(MT) | 61% |
| トラディショナルトレード(TT) | 25% |
| Eコマース | 14% |
ハイパーマーケットだけで見ると、Lotus’s(CP)が46.79%、Big C(TCC)が38.56%。上位2社で85%を超えています。
下の図は、調味料カテゴリにおける流通構造の全体像です。

ここまではレポートにも載っている話です。問題はこの先、「棚に並べるのにいくらかかるのか」。タイ語で調べないと出てこない世界です。
棚に並べるには「口座開設料」と「入場料」が必要
MTチェーンと取引を始めるには、商品を並べる前にOpen Account(口座開設料)50,000〜100,000バーツ(約20〜40万円)をチェーンごとに支払います。
さらにEntrance Fee(棚入り料)がかかります。
| 小売形態 | Entrance Fee |
|---|---|
| ハイパーマーケット(1〜4 SKU) | 5,000バーツ(約2万円) |
| 一般的なMTチェーン | 10,000〜100,000バーツ(約4〜40万円) |
| セブンイレブン(全国約14,000店) | 1,000,000バーツ(約400万円)/ 1 SKU |
セブンイレブンは約14,000店に一斉配荷されるため、1店舗あたり約71バーツ(約280円)。それでも新商品を3 SKU並べると初期投資は1,200万円です。3〜6カ月のレビュー期間で売上未達なら棚から撤去され、Entrance Feeは返ってきません。
GP(粗利マージン)は15%〜50% — 交渉力で決まる
小売チェーンが取るGP(粗利率)は15〜50%。ブランド力と交渉力で大きく変わります。
| 小売形態 | GP率 |
|---|---|
| ホールセール(Makro等) | 約5% |
| ハイパーマーケット | 15〜25% |
| コンビニエンスストア | 30〜40% |
タイの掲示板Pantipには、メーカーのリアルな声があります。
「69バーツの商品でGP 40%。メーカーに残るのは35バーツ。DC費とリベートを引いたら、原価20バーツ以下で作らないと利益が出ない」
日本で有名なブランドでも、タイの消費者に知られていなければ「新規」扱い。高いGP率を求められます。
棚に並べた後も毎年コストが増える
TTA(Trade Term Agreement)は年次の取引条件契約で、追加コストは売上の10%以上に達します。条件は毎年メーカーに不利な方向にしか動きません。
タイの独立メディア101 PUBはこう表現しています。
「TTAの条件を受け入れるか、棚から撤去されるかの二択」
Entrance Fee以外にも、Rebate(年間売上リベート)、DC Fee(物流センター使用料1〜3%)、広告協賛費、新店オープン値引き、EDI Fee、棚管理費の合計7種類のフィーが課されます。
支払い条件も問題です。契約上はNet 30(30日払い)でも、実際の平均支払い日数は約62日。CP ALLの2024年アニュアルレポートから算出された数字です。新規参入メーカーは委託販売(売れ残り返品)を求められることも多く、キャッシュフローの負担は大きくなります。
コストを積み上げると「小売価格の半分以上」が消える
GP、DC Fee、TTA、ディストリビューターマージンを合計すると、小売価格の50%以上が流通コストになります。
| 項目 | 比率 |
|---|---|
| GP(小売マージン) | 20% |
| DC Fee | 2% |
| TTA追加コスト | 10% |
| ディストリビューターマージン | 20% |
| 合計 | 約52% |
メーカーの手取りは小売価格の48%以下。ここから原材料費・製造コスト・輸送費を引きます。
ほとんどの日本メーカーは現地ディストリビューター(DKSH、SPC、Loxleyなど)を経由してMTに納品します。TTA交渉代行から営業、SNSマーケティングまで一貫して担いますが、マージンは売上の15〜25%です。
タイ語で調べないと見えない世界
チャネル構成比やチェーン一覧は日英のレポートでもわかります。しかしGP率、Entrance Feeの金額、TTAの仕組み、支払い条件の実態は、タイ語の業界メディアや掲示板にしか載っていません。
東南アジアの流通コスト構造を調べるには、現地語の情報源にアクセスすることが不可欠ではないでしょうか。
【出典】
- 101 PUB「อำนาจเหนือตลาดของโมเดิร์นเทรด」2025年
- BrandAge「7 เครื่องมือเรียกเก็บค่าใช้จ่ายจากซัพพลายเออร์」2021年
- BrandAge「Listing Fee คืออะไร」2024年
- ThaiFranchiseCenter「ทำไมต้องมี Listing Fee」
- Pantip(タイの掲示板)モダントレード関連スレッド
- JETRO「タイにおける食品流通調査」2024年
- Roland Berger「Unraveling Asia’s complex consumer landscape」2023年
- US Trade.gov「Thailand Distribution and Sales Channels」
- CP ALL「Annual Report 2024」
調査者について
木下隆志 — 株式会社タイトンマイ代表
- 大阪大学大学院修了
- シャープ株式会社の調達部門に8年間勤務
- うち2年間はタイ工場に駐在、調達課長として現地スタッフのマネジメントを担当
- 日本人管理職は自分一人の環境で、英語・タイ語での調達実務を経験
- 独立後、80カ国以上・10,000社以上の企業調査を実施
