2025年、中国で売れた新エネルギー車(NEV)は1,649万台。世界のEV販売の約62%を中国が占めています。

「中国EVがすごいらしい」というニュースは目にするものの、具体的にどのメーカーが何万台売っているのか、なぜあれほど安いのか、そして自社のASEAN事業にどう影響するのか。こうした疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。

自分自身、タイに住んでいて街中のBYDやMGの急増を肌で感じています。この記事では、最新の販売データをもとに中国EVメーカーの勢力図を整理し、「安さの構造」と「タイ・ASEANへの波及」を掘り下げてみます。


5年間で12倍 — 中国NEV市場はどこまで来たか

中国のNEV販売台数は2020年の136.7万台から2025年に1,649万台へ、わずか5年で12.1倍に成長しました。

NEV販売台数前年比NEV比率
2020136.7万台+10.9%5.4%
2021352.1万台+157.5%13.4%
2022688.6万台+95.6%25.6%
2023949.5万台+37.9%31.6%
20241,286.6万台+35.5%40.9%
20251,649万台+28.2%47.9%

NEV比率は5.4%から47.9%へ上昇し、2025年10月には月次で初めて50%を超えました。新車の2台に1台がNEVという時代に入っています。

世界全体のEV販売2,070万台のうち、中国が約1,290万台(62%)、欧州が約430万台(21%)、北米が約180万台(9%)。中国だけで欧米を合わせた数を上回っています。


メーカー別販売台数ランキングTop10(2025年通年)

BYDが中国国内348万台、グローバル460万台で世界首位。一方、吉利が+90%の急成長でBYDの独占を揺るがしています。

中国国内NEVリテール販売Top10

順位メーカー販売台数シェア前年比
1BYD(比亜迪)348.5万台27.2%-6.3%
2吉利汽車(Geely)156.5万台12.2%+81.3%
3長安汽車(Changan)78.9万台6.2%+26.8%
4上汽通用五菱(SGMW)77.2万台6.0%
5テスラ中国62.6万台4.9%-4.8%
6HIMA(華為系)58.9万台4.6%
7奇瑞汽車(Chery)53.1万台4.1%
8Leapmotor(零跑)53.0万台4.1%
9Seres(賽力斯/問界)42.3万台3.3%
10小米汽車(Xiaomi)41.2万台3.2%

注目すべき点がいくつかあります。

  • BYDは国内では-6.3%と初の前年割れ。成長を支えているのは海外販売(105万台、+150.7%)
  • 吉利のGalaxy Xingyuanが車種別販売で首位を奪取。BYD一強の構図が崩れ始めた
  • 小米が初の通年販売で41万台。SU7だけで25.8万台を売り、いきなりTop10入り
  • テスラの中国シェアは2020年の11%から4.9%に半減。Top10で唯一の外資メーカー

5年前にはTop10にいた北汽新能源やVWが消え、吉利、長安、HIMA(ファーウェイ系)、小米といった新勢力が台頭しました。


なぜ中国EVは安いのか — 補助金は全体の6%にすぎない

「中国EVが安いのは補助金のおかげ」という見方は、データで見ると正確ではありません。

ある日系自動車メーカー関係者から「中国メーカーには勝てない。国がバックアップしている。設計費用がほぼ無料だ」という話を聞いたことがあります。では実際のところ、安さの内訳はどうなっているのでしょうか。

米国のシンクタンクRhodium Groupが2026年に発表した分析が興味深いです。BYD SealとTesla Model 3(いずれも中国生産)の1台あたり約4,700ドルのコスト差を要因分解しています。

要因コスト優位割合
垂直統合(部品の80%を内製)2,369ドル50%
低い間接費・R&D単価1,719ドル37%
政府補助金292ドル6%
サプライヤー支払いサイト延長214ドル5%
優遇融資12ドル0.3%

補助金の寄与は全体のわずか6%(292ドル)。安さの本質は、BYDがバッテリーからパワー半導体まで自社で作る「垂直統合」(50%)と、中国の低い間接費(37%)にあります。

もちろん政府支援がゼロではありません。CSISの試算では、2009年から2023年に累計2,309億ドルがEV産業に投じられました。ただし現在は補助金が段階的に縮小されており、2026〜2027年は車両取得税の50%減免(上限1.5万元)、2028年以降は通常課税に戻る予定です。

バッテリー価格の下落も見逃せません。BloombergNEFによると、中国のバッテリーパック価格は2024年の94ドル/kWhから2025年には84ドル/kWhまで低下。BYDは約44ドル/kWhまで下げています。


タイで何が起きているか — 日本車シェアが初の7割を割った

2025年、タイの新車市場における日本車のシェアが76.7%から69.3%に低下し、初めて7割を割りました。

自分がバンコクで暮らしていて実感するのは、BYDのATTO 3やDolphinを見かける頻度が明らかに増えたことです。データもそれを裏付けています。

指標2024年2025年変化
日本車シェア(全体)76.7%69.3%-7.4pt
中国車シェア(全体)11.6%18.2%+6.6pt
中国車シェア(BEV市場)81.5%約85%拡大

日本メーカー別に見ると、トヨタは+4.4%と踏みとどまっていますが、ホンダは工場統合で生産能力を55.6%削減、日産はタイ第1工場での完成車組立を終了しました。

一方、BYDはタイ・ラヨーン県の工場(年間設計生産能力15万台)で2024年7月から操業を開始し、2025年11月時点で累計7万台を超えています。さらにこの工場からドイツやベルギーへの欧州輸出も始まりました。

2026年1月には中国ブランドのシェアが単月で46.8%に急騰したというデータもあります。この数字が定着するかは見極めが必要ですが、トレンドの方向は明らかです。


ASEANへの波及 — タイは予告編にすぎない

タイで起きている変化は、ASEAN全域に広がりつつあります。

EVシェア中国メーカーの状況
タイ約18%BEV市場の85%が中国メーカー
インドネシア約15%BYDがEV市場首位(約45%)、10億ドル規模の工場建設中
ベトナム約40%VinFast(国産)が圧倒的。中国勢は苦戦するもCheryが8億ドル工場建設中
フィリピン約5%BYDが自動車市場全体で3位に躍進(前年比+446%)
マレーシア約4%→急拡大BYDがEV販売首位(14,407台)

IEAの見通しでは、ASEAN-6のEV販売は2025年に50万台を超え、市場規模は2030年に186.6億ドル(CAGR 32.61%)に達するとされています。

興味深いのはベトナムです。国産メーカーのVinFastが2025年に17.5万台を納車し、市場の約3分の1を押さえています。中国メーカー最上位のWulingでもシェア約1.5%にとどまっており、「中国EVが来れば全部持っていかれる」わけではないことを示しています。


日本企業にとっての選択肢

「中国EVには勝てない」で思考停止するのは早いかもしれません。

データを見ていくと、いくつかの現実的な選択肢が見えてきます。

  • 中国メーカーへの部品供給。BYDの垂直統合は80%ですが、残り20%には日本の精密部品が入る余地があります。実際、デンソーやアイシンは中国NEVメーカー向け事業を拡大しています
  • ASEAN市場の「EV以外」。タイの新車販売62万台のうち、BEVはまだ約10万台。ピックアップトラックやHVなど、EVが浸透しにくいセグメントは残っています
  • 「タイは中国の3〜4年遅れ」の時間差の活用。中国のNEV比率が5.4%だった2020年は、今のタイ(約18%)に近い状態でした。中国市場のデータを見れば、タイの3〜4年後がある程度予測できます

BYDが19万台から460万台に成長するのに5年しかかからなかったことを考えると、この時間差はそれほど大きくありません。判断を先延ばしにできる期間は、データが示す以上に短いかもしれません。


【出典】

  • CnEVPost「Automakers’ share in China NEV market in 2025」2026-01-12
  • CnEVPost「China NEV sales total 16.49 million in 2025」2026-01-14
  • Gasgoo「BYD wraps up 2025: global sales 4.6 million」2026-01
  • Geely Auto「Geely Auto Exceeds 3.02 Million Vehicle Sales in 2025」2026-01
  • Rhodium Group「Why Are Chinese EVs So Cheap?」2026
  • CSIS「The Chinese EV Dilemma: Subsidized Yet Striking」
  • BloombergNEF「Battery Pack Prices Fall to $108/kWh」2025
  • JETRO「2025年の自動車生産は前年比0.9%減」2026-02
  • Nation Thailand「EV sales soar to 18% share」2026-01
  • CnEVPost「BYD Thailand plant reaches 70,000th production」2025-12-03
  • Ember「ASEAN emerges as a new leader in global EV adoption」
  • Rho Motion / EVinfo.net「Global EV sales reached 20.7 million units in 2025」2026-01

調査者について

木下隆志 — 株式会社タイトンマイ代表

  • 大阪大学大学院修了
  • シャープ株式会社の調達部門に8年間勤務
  • うち2年間はタイ工場に駐在、調達課長として現地スタッフのマネジメントを担当
  • 日本人管理職は自分一人の環境で、英語・タイ語での調達実務を経験
  • 独立後、80カ国以上・10,000社以上の企業調査を実施

https://taitonmai.co.jp/knowledge/20260330_03.html